疲れをとるクラシック音楽

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西池袋にクラシック音楽を流すバーがあった――モーツァルト:クラリネット協奏曲/ブラームス:間奏曲集

池袋で所用を済ませたあと、人から聞いた西池袋のAというバーに行って、妙なことが気になった。樽に入ったシングルモルトも、ちょっと気の利いたナッツも、照明も店員のサービスも申し分ない。カウンターも、さほどいい板ではないが居心地は悪くない。では、何が引っかかっているのか。

意外なことに、それは音楽だったようだ。まずいけないのは、ジャズであること。それもイージーリスニングっぽいやつはいただけない(偶然きのう書いたドビュッシーの「月の光」をモダン・ジャズ風にやったやつだった)。集中力をそぎ、酒のうまさが全く活きないのだった。

さらにいえば、スピーカーが良くない。JBLBOSE風の小さなモニタースピーカーだが、店主が音楽好きの客を満足させる意図を持っていないことが見え見えだった。とはいえ、カップル客の雰囲気を邪魔しないためには(立教大生らしいパーカーを着たカップルがいた)、むしろこの程度の方がいいかもしれないと考えると、店主は周到に調整していたのかもしれない。

ということで酒の見事さに感心しつつ、いまひとつ納得できないまま。どこかで飯でも食おうかと細い道を歩いていると、もう一軒、Cというバーがあったので入ってみた。驚くことに、この店はお定まりのジャズではなく、クラシックを掛けていたのであった。

ホームページによると、その月は店主が5枚のCDを選んでかけているという。カウンターに座ったときは、モーツァルトのクラリネット協奏曲が掛かっていた。この演奏は以前よく聞いていたから分かる。アルフレート・プリンツがソロ・クラリネットを吹き、ウィーン・フィルが伴奏したものだ。


Mozart Klarinetten Konzert Kv.622-1(1/2), Karl Bohm, Prinz

指揮はカール・ベーム。若いころに聞いたときは退屈だと思っていたが、歳を取るとこの退屈なほどの柔らかさが極意だということがよく理解できる。カウンターの中の店員に聞くと、さっきまでブラームスの間奏曲集が掛かっていたのだそうだ。

こちらの演奏は、グレン・グールド。あの伝説的な名演である。「あー、ちょっといま掛けてくれませんか。いい音楽を聞きながら酒を飲みたかったんです」と喉まで出掛かったが、もしそうしてもらったなら終電まで帰れなくなると思い、注文をぐっとボウモアで飲み下して帰った。


Brahms - Intermezzo Op.117-1

帰りの電車の中で、自分がウィスキーとスピーカーにここまで高い期待を持っていたことに気づいて、少し驚いたものだ。もしかすると、俺が幸せになるためには、この2つさえあれば十分なのかもしれない。